2017年9月12日火曜日

シームレスウーマン特集 Vol.3
ピアニスト、作曲・編曲家
甲斐麻里さん





音楽があれば、どんな国、どんな文化圏でも自分らしく人生を彩れると思う。




ピアニスト 作曲・編曲家
甲斐麻里さん


次の目標は、世界のどこにいても自分のライフスタイルに合わせ音楽を表現し続けること…








シームレスウーマン特集 Vol.3 
国境を越え、文化や言語の壁を乗り越えて、新しい環境に順応しながら、しなやかに自分自身を表現しつづける女性をとりあげます。


ー現在、駐在員家族として、ブラジルにお住いの甲斐麻里さん。幼少から音楽を学び、日本でピアノ講師として活躍されていた甲斐さんは、配偶者のブラジル赴任が決まった時、ご自身にとって大きな部分を占める音楽にどういった形でかかわれるのかポジティブなイメージはまったくなかったそう。
実際ふたを開けてみると、自分の能力を活かせる機会は想像以上に多く、今は、音楽は世界共通、自分が望めば、チャンスは増えていくと実感する日々。次の目標、「世界のどの国にいても自分のライフスタイルにあわせ、音楽を表現し続ける」ことに向けて着々と準備中です。


Q. まず、ブラジル・サンパウロでチャンスをつかむきっかけとなったのは?
元宝塚歌劇団星組男役トップスターの麻路さきさんが主宰されている人気のダンスクラスに参加したことです。幼少期にバレエを習っていたこともあり、スーパースターのレッスンを受けられるなんて!と思いクラスに通い始めました。とても人気があって、時期によっては、ウェイティングリストがあるのですが、とても運が良かったと思います。麻路さんの温かいお人柄もありますが、日本でしたら想像がつきませんよね。でも、サンパウロの駐在社会は、アットホームな雰囲気があり、気兼ねなくその輪の中に入っていけました。


Q. その出会いが音楽活動のきっかけになったと。
ピアノの演奏技法について意見交換をさせていただく機会があり、奏法など細かい部分にまで及びました。そのようなやりとりの中から、麻路さんご自身が日本のコンサートで演奏される曲、宝塚の劇中歌やオーケストラ楽曲をピアノ独奏用に編曲させていただくことに。作編曲は子供の頃から学び、演奏することよりも好きなことでしたので夢中になって取り組み、かれこれ20曲ほど書かせていただきました。


Q. 何かとても深いご縁を感じますね。
現役時代からピアノも得意なことで有名だった麻路さきさん。兵庫に住んでいた私は、幼い頃、母に連れられ、麻路さんが出演されている舞台を観に行っていたのです。当時ステージに立たれていた憧れのスターとこんなご縁があるなんて、まさに夢のよう…亡き母が泣いて喜んでいると思います。


Q. 音楽に対してはとにかく貪欲。ブラジル特有の音楽文化にも触れることにもとても積極的だったと。
クラシック音楽を学んできましたが、これまでも分け隔てなくジャズ、ロック、ポピュラーなど様々な音楽を演奏する機会があり、ブラジル音楽にも壁を感じることなく入っていきました。ブラジルに来てからボサノヴァとジャズピアノのアドリブ奏法の個人レッスン、そしてパーカッションのクラスも受講しました。カホンやパンデイロ、ドラムスなどを教わり、セッションの時に演奏できる楽器が増えて、とても楽しんでいます。


Q. 音楽を通して垣根なく飛び込んでいくエネルギーが「ブラジル日本文化福祉協会*」主催の第70回「ドミンゴコンサート**」の出演に繋がりました。このコンサートは、年4-5回開催され、通算80回以上も実績があります。駐在員家族が舞台に立つというのはかなり珍しいことですよね。

こちらで知り合ったピアニスト、矢崎愛さんとLeandro Roversoさんからゲスト出演のお誘いがあり、共演させて頂きました。プログラムにはブラジルの方にも日本音楽を知っていただきたいという思いで邦楽曲も数曲入れました。プログラムは「モーツァルトからボサノバまで」をテーマに組み、フィナーレではロッシーニのセビリアの理髪師より序曲を3名で6手連弾しました。


*ブラジル日本文化福祉協会は、ブラジル日系社会の中心的機関として、ブラジル社会において日本文化の継承と普及を促進すると共に、日本においてはブラジル文化の紹介と普及に務め、その目的遂行のための活動を率先して、奨励し、支援する団体。サンパウロ・リベルダージ地区にある。
**ドミンゴコンサートは、クラシック音楽の促進を目指すだけでなく、入場料のかわりに、観客が持参した保存食(米や豆など)の寄付を通し慈善団体活動を支援している。



Q. もうひとつ、ブラジルならではの体験を教えてください。
現地知人からの紹介で、Tango e Paixãoというプロのタンゴダンスカンパニーのバックバンドのピアニストとして公演やお店で演奏する機会がありました。バンドメンバーはブラジル人とウルグアイ人、タンゴの本場のお隣の国とあって質の高い本格的なショーで彼らと演奏することは、本当にエキサイティングで心躍るような体験でした。タンゴの定番曲であるLa Cumparcitaをはじめピアソラの代表曲Libertangoや、何度聴いても熱いものが込み上げるほど大好きなナンバーAdios Noninoなど。タンゴはこれまで通ることのなかったジャンルでしたが、歯切れの良いリズムに情熱と哀愁あるメロディーとハーモニー、その情感溢れる音楽に魅了されました。
ウルグアイ出身の86歳で現役だったバンドネオン奏者Oldimar Pocho Caceresさんは、共演の翌年に亡くなられましたが、その成熟した音色は今なお、深く心に残っています。


-音楽好き仲間を巻き込んでライブハウスで音楽イベントを開催したり、知人の企画するパーティーや子供向けのイベントで演奏したりと、色々な形で音楽と関われることで色彩豊かなブラジル生活を送っているとのこと。

Q. 今の生活で不満はありますか?
私にとってブラジルが初めての海外生活なので、時間の感覚の違いには未だに苦労しています。スーパーのレジ待ちに10分、約束日時に届かないネットショッピング、水漏れ・電気修理など日常で関わるサービスは訪問時間の指定ができないことが多く、1日待っていて結局来ないなんてことも。毎度のことなのですがこればかりはなかなか慣れません。苦笑

ブラジル音楽のリズムにはすっと入っていけるのに、ブラジルの時間感覚には慣れない…なんだか面白いですね。


Q. 音楽活動だけでも多彩でとにかくエネルギッシュな活躍をされていますが、その他にもはまっていることがあると。
日本にいたころと比べると、人を家に招く機会が多く、凝り性な性格もあって、ホームパーティー検定や、インテリアコーディネート、テーブルコーディネート、フラワーアレンジメント、お料理も勉強しました。
このような趣味と音楽を結びつけるものがあるとしたら、「おもてなし」の心でしょうか。上質な音、美しい響き、いつもどうやったら聴き手の心を掴み楽しんでいただけるかを考えながらピアノを練習していますが、お料理やテーブルコーディネートをあれこれ工夫しておもてなしをするのと、演奏をお客様に満足し楽しんで聴いてもらいたいという想いは根底に通じるものがあるのかもしれません。日本でずっと生活していたら、音楽漬けの毎日で仕事に追われ、自分の趣味を楽しむ心の余裕はなかったと思います。



Q. 駐在員の生活はいつ終わりがあるのかわからないという悩みもありますが、そのあたりも含めて、今後挑戦したいことや、長期的なプランを教えてください。
娘が生まれてからは、子育てと両立することが私にとって日々チャレンジなのですが、将来的には作編曲の注文を受けるサイトを準備しデモ演奏を配信するような形態で、自分の好きなことを仕事にできたらと思っています。譜面や演奏データはネット上で管理できるので、今後主人の転勤でもし他の国に住むことになっても続けられ、自分のライフスタイルに合わせやすいと考えています。



Q. 最後にブラジル・サンパウロのいいところを。
本音をいえば、クラシック音楽発祥の地である欧州が好きですが、サンパウロにも良いところはたくさん! 人が親切、人種差別がない、意外と都会、移民の国とあって食べ物が美味しい、寒すぎず暑すぎず天候が理想的!


Q. ブラジルには、音楽文化があります。もしも…音楽の文化のない国でも、音楽活動を続けていく自信がありますか?
ブラジルに来る前の心境とは打って変わり、今となっては、音楽文化のない国でも何かしらの活動はできると考えています。文化がないなら尚更自分が指導することや演奏し聴いていただくことで、音楽っていいな! と思ってくださる方が増えると嬉しいです。

甲斐麻里さん
プロフィール
音楽学部卒業。大手音楽教室にピアノ講師として就職。コンクール(ピティナピアノコンペティション等)で入賞多数の生徒の指導、ピアノ講師の指導にも携わる。10年勤務後、配偶者のブラジル転勤に帯同するために退職。家族は夫と、現地ブラジル生まれの2歳になる御嬢さん。

海外ご経験歴
ブラジル・サンパウロ(20117月~現在)-配偶者に帯同


    ご自身の作品














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